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最高裁判所第三小法廷 平成5年(オ)1297号 判決

広島県安芸郡府中町千代一番五号

上告人

株式会社チヨダエンジニアリング

右代表者代表取締役

増井フサヱ

広島市南区皆実町四丁目一七-六

上告人

増井計彦

右両名訴訟代理人弁護士

恵木尚

廣島敦隆

岡山市郡二九八三番地

被上告人

新中野工業株式会社

右代表者代表取締役

為久英二

右当事者間の広島高等裁判所岡山支部平成四年(ネ)第一四〇号不正競争防止法等に基づく損害賠償請求事件について、同裁判所が平成五年四月二二日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人恵木尚、同廣島敦隆の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 尾崎行信 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫)

(平成五年(オ)第一二九七号 上告人 株式会社チヨダエンジニアリング 外一名)

上告代理人恵木尚、同廣島敦隆の上告理由

原判決がさしたる検討を加えることもなく、無批判に一審判決をそのまま踏襲したことは以下に述べるように経験則ないし採証法則の誤り又は審理不尽の違法さらには法令解釈の誤りがあり、これらが判決に影響を及ぼしていることは明らかである。

一、原判決が上告人の「不正競争行為」を認定したことの経験則ないし採証法則の誤り

1、原判決は「昭和六三年五月頃から平成元年六月頃にかけて、上告人チヨダの従業員や代理店が、その営業行為の際に、本件精白転子が本件意匠権を侵害し、本件精白転子が使えなぐなる旨被上告人の取引先に陳述、流布していた。(一審判決一一枚目裏一二行目以下)」と認定している。

2、しかしながら、右認定事実は、出張報告書、運転日報(甲第五号証乃至七号証)等の被上告人会社の内部文書とこれに基づく被上告人会社社員為久博文証人の極めて瞹昧な伝聞証言又は推測(同証人の平成三年二月二〇日速記録三三頁~四〇頁参照)を安易に信用する一方、右認定事実に反する上告人増井、上告人チヨダ社員藤川巌、同菅沼恒雄らの各証言を合理的理由なく排斥したものであって明らかに経験則ないし採証法則の誤りである。

二、原判決の意匠法五〇条一項の解釈の誤り

1、原判決によれば「本件意匠権は本件意匠登録を無効にすべき旨の審決が平成三年一二月一九日確定したことにより、初めから存在しなかったとみなされる(意匠法五〇条一項)から、右陳述、流布の内容は虚偽の事実の陳述、流布に該当するというべきである。(一審判決一一枚目裏四行目以下)」とする。

2、原判決は右のように無効審決の確定の遡及効から短絡的にそれまでの意匠法の有効な存在を前提どした主張が「虚偽」の事実に転換すると解しているが、これは、無効原因が存在していても審判により無効とされ、これが確定するまでは権利として有効に存在するとされていることをまったく考慮していない解釈で誤っている。即ち、無効審判確定の遡及効と言っても確定までの有効性と調和する範囲での効力しか認められない。

とすれば、当初から無効であったことになるからと言って、そのことから直ちに、有効を前提とした主張が「虚偽」になるとまでは認められないのである。

原判決の解釈によると、上告人らのように後に無効審判が確定する意匠権に基づいて意匠権侵害訴訟を提起したこと自体が無効審判確定後は、無効な権利にもとづく「虚偽の主張」をしたことになるという不当な結果となる。

三、原判決が上告人らに「過失」を認めた審理不尽の違法

1、原判決は「上告人チヨダ及び上告人増井には本件意匠権に無効理由がないとの判断につき過失があった」と認定し、その理由として「上告人増井としては、右公報の図面の内容や物品の性格を熟知しているから本件意匠権が無効原因を有することは十分に認証可能であったこと、上告人増井が原告に対して発した警告書に対し、被上告人は本件無効審決と同じ理由で反論していること、上告人増井は被上告人の右反論にもかかわらず本件不正競争行為を行ったことが認められるから、上告人増井が右警告書を発するに際し弁理士と協議しているとしても、被上告人の右反論に対し、上告人増井が真剣な注意を払い、再度弁理士の意見を求める等の慎重な行動に出ておれば、右の無効理由の存在及び本件不正競争行為のような陳述の流布が違法であることを当然に知りえたはずであるから(一審判決一二枚目裏二行目以下、原判決五枚目裏七行目以下)」とする。

2、しかしながら、原判決の認定は、以下の重要な事実を故意に見過ごした点で、審理不尽の違法がある。

(1) 本件意匠権の無効は、平成元年一一月三〇日に無効審判が出てから、東京高裁最高裁での右無効審決取消訴訟を経由した結果、平成三年一一月一九日に確定したものである。

それを原判決は、当初から結論が判明しているかのような認定である。

そもそも公開特許公報は、意匠を記載とすることを本来の目的とするものでなく公開特許公報中の図面が、本件意匠と類似するかは、争いの余地のある問題であり、だからこそ、上告人らは、一方で、被上告人に対して、意匠権侵害の損害賠償請求をするとともに、その後の無効審判を最高裁まで争ったものである。

(2) しかも、原判決が、本件不正競争を認定している「昭和六三年五月頃から平成元年六月頃(一審判決二枚目表一二行目)」の時期は、まだ特許庁の無効審判(平成元年一一月三〇日)も出ていない時のころである。

無効審判の前後によって、当然「過失」認定の判断が異なってしかるべきであるのに(東京地裁昭和三七年一一月一日判決、昭和三二年(ワ)第八六六号損害賠償請求事件、判例タイムズ一四〇号一六三頁参照)原判決は、この点を、まったく考慮していない。

(3) さらに、原判決は、「被上告人の反論に対し、上告人増井が真剣な注意を払い再度弁理士の意見を求める等の慎重な行動に出ておれば」云々と一審判決に追加しているがまったくナンセンスな追加という外はない。

上告人増井は、当然に、弁理士の意見を求め、本件意匠権に無効原因があるとの被上告人の反論は誤りであることを確信していたのである。

最終的に最高裁で決着がついたことについて、法律の素人である上告人増井が「本件不正競争行為」の時点で、知るべきであったというのは、無理な注文であることは明らかである。

四、以上述べたように原判決には、経験則ないし採証法則の誤り、又は審理不尽の違法さらには法令解釈の誤りがあり、これらが判決に影響を及ぼしていることは明らかであるから原判決を破棄し、上告の趣旨記載の判決を下されたい。

以上

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